鎌倉紀行ロゴ

鎌倉の萩寺めぐりと、奇祭「面掛行列」

つい先日までの暑さが嘘のように、朝夕は秋の訪れを肌で感じる9月中旬。この時期、鎌倉の寺の境内を彩るのが萩の花。
今回は、鎌倉の萩の名所をめぐってみたいと思います。

鎌倉大仏。2016年の半世紀ぶりとなる大がかりな調査・清掃作業後に営まれた法要

秋の鎌倉で萩の名所めぐり

まずは、谷戸の奥にたたずむ海蔵寺を目指して

まずは、谷戸の奥にたたずむ海蔵寺を目指して

今回は、初秋に咲く萩の名所をめぐってみたいと思います。歩くコースは、鎌倉駅西口-海蔵寺-宝戒寺(萩寺) -長谷の御霊神社。散歩の最後には、毎年、9月18日に奉納される御霊神社の奇祭、「面掛(めんかけ)行列」を見物します。
まずは、鎌倉駅西口から海蔵寺を目指して、歩きはじめます。

ススキの穂が揺れる散歩道

ススキの穂が揺れる散歩道

鎌倉駅西口から寿福寺や、鎌倉で唯一残る尼寺の英勝寺の前を通って海蔵寺に至る道は、路傍に『十六夜日記』の作者・阿仏尼の墓があったり、小さな稲荷がまつられていたりと、一年を通じてとても味わい深い散策路。
私はとくに秋のはじめにこの道を歩くのが好きです。道ばたに揺れるススキの穂を見ると、ああ、秋だなと思います。

優美な紫色の滝

優美な紫色の滝

道は、しばらく横須賀線の線路に沿って進み、寿福寺、英勝寺の門前を過ぎ、左手奥の方に向かって歩を進めます。この細道をずっと進んだ先の、谷戸(やと)の一番奥に海蔵寺(かいぞうじ)があります。
9月中旬、朝夕の冷たい空気に秋を感じはじめる頃、海蔵寺山門前は美しい赤紫色の萩が、幻想的に咲き乱れます。その様子は、あたかも流れ落ちる優美な紫色の滝のようです。
この美しい滝を掻き分けるように、参拝客は石段を上り、山門へ向かいます。できれば人の少ない早朝に訪れて、この贅沢な空間を独り占めしてみたいものです。

花の寺、水の寺

花の寺、水の寺

海蔵寺は四季折々の花が咲く「花の寺」であると同時に、本堂裏手の心字池庭園や山門前の「鎌倉十井」のひとつ「底脱の井(そこぬけのい)」、さらに境内裏手には「十六の井」などがあり、その寺名のとおり、境内に海のように豊かな水をたたえる「水の寺」でもあります。
萩の咲く境内の小道を先へ進むと「十六の井」があります。岩肌の洞穴に縦横四列づつ十六の穴が並び、滾々(こんこん)と湧く清水を湛えます。
この不思議な形の井戸は、決して枯れることがないといいますが、誰が何のために造ったのかなど詳しいことは分かりません。

鎌倉の萩寺 宝戒寺へ

切通しに咲く萩

切通しに咲く萩

次は、宝戒寺を目指しましょう。鎌倉で「萩寺」といえば、宝戒寺を指します。
宝戒寺は鶴岡八幡宮の近くにあるので、海蔵寺からであれば、「鎌倉市川喜多映画記念館」前を通る「窟堂道(いわやどうみち)」を歩いたほうが近道ですが、できれば「亀ヶ谷坂切通し」を歩いてみてください。「亀ヶ谷切通し」では、道の両側に咲く、萩が見られます。
地図は、ページの下のほうに掲載しています。

白萩が咲き乱れる

白萩が咲き乱れる

宝戒寺の平石の石畳の両脇には、白萩がこぼれんばかりに咲いています。ふだんからこの石畳の道は美しいですが、萩の咲く季節は一層映えて見えます。
宝戒寺の境内では、白萩のほか、白い曼珠沙華(まんじゅしゃげ。彼岸花の別名)も見られます。宝戒寺の拝観を終えたら、鎌倉駅へ戻り、江ノ電で長谷に移動します。

面掛行列

鎌倉に秋の訪れを告げる奇祭

鎌倉に秋の訪れを告げる奇祭

毎年、9月18日は長谷の御霊神社(権五郎神社)に伝わる奇祭「面掛行列」奉納の日。
御霊神社は長谷寺のちょうど裏手にあります。鎌倉彫の「白日堂」さんのところから路地に入っていくと近道になります。
面掛行列は別名「はらみっと行列」ともいい、かつて頼朝が隠れ里の娘を懐妊させてしまい、その口止めのため、年に一日限り、里の住人に許した無礼講の名残ともいわれ、「おかめ」の面をつけた妊婦など、面をつけた十人衆が町を練り歩く奇祭です。


湯立神楽(鎌倉神楽)

湯立神楽(鎌倉神楽)

まず、13:00~14:00過ぎまで御霊神社境内で神楽が奉納されます。
神楽が舞われる「神楽座」のわきでは大きな釜でお湯を沸かしています。
この神楽は「湯立神楽」といい、沸かしたお湯で、祓い(はらい)と吉凶を占う湯立の神事を行います。かつては鶴岡八幡宮の神職によって演じられたことから、「鎌倉神楽」ともいわれます。

「面掛行列」開始

「面掛行列」開始

14:30 御霊神社下の住宅地から面掛行列が出発。笛、太鼓などのお囃子、天狗の面をかぶった猿田彦(さるだひこ)、獅子頭(ししがしら)をかつぐ人の後に、面掛行列が続きます。
行列は、爺(じい)・鬼・異形(いぎょう)・鼻長(はななが)・烏天狗(からすてんぐ)・翁(おきな)・火吹男(ひふきお)・福禄寿(ふくろくじゅ)・おかめ・女の十人衆。
行列の9番目を歩く妊婦は、伝説で頼朝に孕(はら)まされたといわれる娘。大きなお腹をさすりながら通り過ぎていきます。

七福神の面も

七福神の面も

祭りに使われる面は、仏教布教のために上演された伎楽や舞楽・田楽などに使われる種類の面。ちなみに御霊神社は鎌倉・江の島七福神めぐりの「福禄寿」に指定されており、「面掛行列」で使う面が、七福神の「福禄寿」です。
面は、ふだんは御霊神社の収蔵庫に保管されていて、正月の「七福神めぐり」の時期などは収蔵庫の扉を開けて一般公開されます。

アクセス

モデルコース データ
徒歩区間の距離 約5.5km(鎌倉駅西口~海蔵寺~亀ヶ谷坂切通し~鶴岡八幡宮~宝戒寺~鎌倉駅東口)
コース所要時間 1時間半~2時間
注意点など
  • 所要時間は、あくまでも目安です。鎌倉は季節によっては大変混雑し、お店や施設に入りにくくなることもあります。
  • 一部、住宅地の中を歩く際は、お静かにお願いします。