1月も下旬になると、早いところでは、梅がほころび始めます。梅の甘い香がすると、「ああ、もう少しで春だな」と思いますね。今回は、鎌倉の梅の美しいお寺や神社をめぐります。荏柄(えがら)天神社、瑞泉寺、東慶寺の順にまわってみたいと思います。
まずは、荏柄(えがら)天神社に向かいましょう。鎌倉駅から鶴岡八幡宮の門前を通り、バス通り(金沢街道)を、大塔宮(鎌倉宮)を目指して歩いて行きます。途中にある宝戒寺というお寺では、見事なしだれ梅を見ることができます。
「岐れ道」という交差点から左手へ、鎌倉宮へと続くお宮通りへ入り、しばらく行くと、「天神前」というバス停があります。ここを左に進むと、荏柄天神社のお社があります。荏柄天神社は、頼朝の鎌倉入府以前から鎮座する古社で、天神様ですから、もちろんご祭神は学問の神様・菅原道真公です。受験シーズンには、たくさんの受験生がお参りに来ます。
境内では、年明けて間もなくの1月25日、古筆や鉛筆を燃やし、学力の向上と文字の上達を祈願する「筆供養」という行事が行われますが、もうこの頃になると、朱色の社殿両脇の紅白の梅が、少しずつ花を開きはじめます。
旧暦の1月25日は、ライバルの藤原氏に陥れられ、道真公が大宰府に左遷された日。そのとき、都の自邸の庭の梅を詠んだのが、かの有名な歌です。
東風(こち)吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな
たとえ私が(都から)いなくなっても、春風が吹いたなら、どうか春を忘れずに花を咲かせておくれ、梅の花よ、というもの。「東風」とは、東方から吹く風。本来、春の訪れを告げる風ですが、この和歌のせいか、どこか淋しさを感じさせます。
さて、社殿に向かって、左に目を向けると、「絵筆塚」が立っています。高さ三メートル二十センチの筆の形をしたオブジェで、フクちゃんで有名な漫画家、故・横山隆一さん(生前鎌倉在住)の奉納。漫画家154名が描いた、かっぱ絵のレリーフが表面に貼り付けてあります。154枚のレリーフを見ていくと、どれも個性的。藤子・F・不二雄さんの河童姿のドラえもんのレリーフもあります。
荏柄天神社から鎌倉宮の前を通り、右に進路をとります。道は狭いですが、車の通りも少なく、散歩するにはとても良い道です。途中、日本画家の故・平山郁夫さんのお宅の前を通り、奥へと進めば、やがて瑞泉寺にたどり着きます。
瑞泉寺は「鎌倉の花の寺」として知られ、四季折々の花を楽しむことができますが、紅葉と早春の梅の季節が一番華やかになります。瑞泉寺の梅は、境内に入ってすぐ左手に広がる梅園と、階段を上がって本堂前に植えられています。瑞泉寺の梅の開花は遅く、2月の中旬以降になることが多いようです。
瑞泉寺には、京都の天龍寺や苔寺・西芳寺のお庭を作庭した夢窓疎石(夢窓国師)作庭の石庭が本堂裏手にありますので、忘れずに拝観してください。
さて、最後は北鎌倉の東慶寺に行ってみようと思います。瑞泉寺から鎌倉宮まで戻り、大塔宮バス停から鎌倉駅行きのバスに乗りましょう。鎌倉駅からお隣の北鎌倉の駅までは電車で移動します。そして、北鎌倉の駅から県道(鎌倉街道)に出て、左のほう(鎌倉方面)へ歩くと、まもなく右側に東慶寺があります。
東慶寺の境内は、のどかな山里の雰囲気。東慶寺は江戸時代の「駆込み寺」として知られ、女性から離婚請求のできなかった封建時代、この寺に駆け込んだ多くの女性を救いました。境内の松ヶ岡宝蔵に収蔵される多くの離縁状など縁切関係の古文書は、「駆込み寺」の歴史を今に伝えています。
そして、梅の時期には、毎年恒例となっている「東慶寺仏像展」が、境内の「松ヶ岡宝蔵」開催されているので、見逃さないように。「鎌倉の美女」とも呼ばれる、普段は、拝観に事前予約が必要な、優美な仏さま「水月観音」も、予約なしで拝観することができます。
また、松ヶ岡宝蔵の奥の墓地には、小説家の高見順、評論家の小林秀雄、哲学者の西田幾多郎、和辻哲郎をはじめ、多くの文人・著名人が眠ります。徒歩区間の距離 | 約4.0km(鎌倉駅~宝戒寺~荏柄天神社~瑞泉寺)/(北鎌倉駅~東慶寺) |
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コース所要時間 | 約2時間半~3時間 |
注意点など |
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